名を呼ばない泉

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ルミナスの神殿の裏に、
古い泉がある。

戦いのあと、
旅人はそこに座る。

剣を握った指はまだ震え、
耳の奥には剣戟の残響がある。

やがてそれも沈む。
水面が止まるように。

そのとき、
泉の縁にリング・キーパーが立つ。

彼女は何も言わない。
ただ指先で
水面に触れる。

その瞬間、
旅人の喉がわずかに詰まる。
胸の奥で、
何かが動いたからだ。

忘れていたもの。
それとも、
まだ生まれていない何か。

リング・キーパーは
それを見届ける。
だが決して、
名を呼ばない。

ここで浮かぶものは、
名を得た瞬間、
元の旅を失う。

水面には
旅人の顔だけが残る。

その奥で、
まだ名を持たない何かが
静かにこちらを見ている。
ファンタジー
公開:26/03/15 23:51

問い屋

問いを描くショートショートを書いています。
 
その違和感を、
まだ持ったままの人へ。
 
問いの続きを、ここにまとめています。

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