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荒々しい春一番が去った翌日、町にやわらかな風が吹いた。人々はそれを春二番と呼ぶ。
春二番は、誰もその正体をはっきり知らない風だった。南から吹く時もあれば、東の海の匂いをまとって来ることもある。それをただ春の気まぐれと思った。
窓辺の風鈴が鳴る。その音は冬の乾いた風とも、春一番の激しさとも違う。どこか、くすぐったい様な、秘密を打ち明ける前の様な音だった。窓を少し開けると、風は部屋にすべり込んで来る。
その夜また春二番が吹き、庭の梅の蕾をふるわせた。次の朝、梅は一斉にほころびていた。
不思議に思って枝に触れると、花びらの奥から小さな声がした。
ありがとうと、誰かがささやいた気がした。耳を澄ますと、風は町じゅうの戸口をそっと叩き、眠っていた種や約束を起こしてまわっているらしかった。
春二番は嵐ではない。ただ、人の胸の奥にしまわれた願いを、少しだけ早く芽吹かせる風なのだと、その朝わたしは知った。
春二番は、誰もその正体をはっきり知らない風だった。南から吹く時もあれば、東の海の匂いをまとって来ることもある。それをただ春の気まぐれと思った。
窓辺の風鈴が鳴る。その音は冬の乾いた風とも、春一番の激しさとも違う。どこか、くすぐったい様な、秘密を打ち明ける前の様な音だった。窓を少し開けると、風は部屋にすべり込んで来る。
その夜また春二番が吹き、庭の梅の蕾をふるわせた。次の朝、梅は一斉にほころびていた。
不思議に思って枝に触れると、花びらの奥から小さな声がした。
ありがとうと、誰かがささやいた気がした。耳を澄ますと、風は町じゅうの戸口をそっと叩き、眠っていた種や約束を起こしてまわっているらしかった。
春二番は嵐ではない。ただ、人の胸の奥にしまわれた願いを、少しだけ早く芽吹かせる風なのだと、その朝わたしは知った。
ファンタジー
公開:26/02/23 14:56
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gonsuke