泣く部屋

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 その駅には、『泣く部屋』があった。小さな個室で、中にはティッシュペーパーとゴミ箱だけが設置されている。泣きたくなった人が入って、泣くための部屋だ。金曜日の夜に利用者が多いという。ある夜、清掃員がティッシュペーパーを補充しにその部屋へ行くと、中に人がいる気配がした。清掃員がドアの傍で待っていると、部屋の中から、くしゃみの声と、鼻をかむ音が聞こえてきた。そして、中から一人の中年男が出てきて、ずかずかと立ち去っていった。どうやらあの中年男は、泣くための部屋のティッシュペーパーで、鼻をかんだらしい。あのティッシュペーパーは、涙を拭くためのものだ。どうしてそういうことをするのだろう。清掃員はティッシュペーパーの補充作業をしながら、泣きたくなってきた。どうしてああいうモラルのない人がいるのだろう。涙が溢れてきた。清掃員は手の甲で涙を拭った。このティッシュペーパーは、お客様のための物だから。
その他
公開:26/02/26 09:33

六井象

短い読み物を書いています。その他の短編→ https://tomokotomariko.hatenablog.com/

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