「殺さないで」から始まる十二支考 酉年

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「殺さないで」
「殺さないで」
「殺さないで」
「殺さないで」
「殺さないで」
「殺さないで」
「殺さないで」
「殺さないで」
「殺さないで」
「殺さないで」
 卵のパックを開けたとき、一斉にそう聞こえた僕は、改めてその中の一個をつまみ上げ、そっと耳にあててみたら、さざ波のようなすすり泣きのような、お経のような、血流のような、つまりは微かだけれど決して終わらないようでありながら、不意に途切れてしまった後ではもう、どのような音だったのかも思い出せずに悲しくて、けれどその悲しみが、思い出せないせいなのか、それとも聞こえていた音がもたらした感情なのかの区別すらできなくて、ああだから悲しいのかと納得した後も、捨て猫をちょっと抱いてまたダンボール箱に戻して来てしまったみたいな罪悪感の分だけ心が重たくなっていて、多分、そういうちょっとした荷物をいくつもいくつも、僕たちは背負って生きているのかと思った。
ファンタジー
公開:26/02/07 07:47

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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