「殺さないで」から始まる十二支考 巳年

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「殺さないで」
という声が聞こえたので駆け寄ると、古びた戸建て団地の勝手口に、杖を突いた男性とその男性の前にうずくまっている女性の姿が見えた。
「どけ。縁起でもない」
「いや。殺しちゃだめ」
 僕は、男性が何を殺そうとしているのか、そして女性が何を守ろうとしているのかが知りたくなった。それはうずくまる女性の背中に完全に隠れてしまうほどの大きさで、全く鳴声を立てない何かだった。
 突然、夫が、杖の石突き部分を妻の膝の間へ突き立てようと身体を大きく反らした。すると妻はすかさず「イヤッ」と杖を両手でつかんだ。夫がのけぞりながら無理やり杖を持ち上げると、妻の上半身がぐいと引き起こされた。その時、妻が身を挺して庇っていたものの一部が見えた。
 ヘビだった。
 妻の股間で重たげにとぐろを巻き、ゆるく鎌首をもたげていたそれは、青大将とよばれる大型の蛇に間違いなかった。
 僕は満足してその場を立ち去った。
ファンタジー
公開:26/02/02 23:15

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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