「殺さないで」から始まる十二支考 午年

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「殺さないで」
と聞こえた気がして耳をそばだてた。するとすぐに、
「生け捕りだ」
という声が続いた。
 元旦の境内にはあまりにも場違いな言葉だ。
「始めるぞ」
 周囲は喧噪に溢れていたが、聞こえてくる声はけっして大きなものではなかった。そしてそれは、僕の左右や背後からというよりも、目の前の、たくさんの絵馬がかかっている棚の裏側から聞こえてくるようだった。
「追い込め。追い込め」
 という声がすると、一斉に絵馬が震え始めた。
 カタ、カタカタカタ、カタ、カタタッ、カタタッ、カタタタッ
タタタッ、タタタッ、タタタッ
 次第に、絵馬がぶつかり合う音が一定の調子を取り始めた。
「来るぞ。殺すな」
 タタタッ タタタッ タタタッ
 全部の絵馬が暖簾のように捲りあがると、生臭い塊が僕を押し倒していった。
「不味い。撤収」

「大丈夫ですか?」
 と僕に手を差し伸べてくれた人はウマのような顔をしていた。
ファンタジー
公開:26/02/04 22:20

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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