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 バイオリンソロから第一バイオリン第二バイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス、チェンバロ、ヘ短調!
 ────フィニッシュ。

 万雷の拍手。
 指揮者は優雅に一礼をした。
 
 彼は当代随一の指揮者。 
 観客はみんな満足して家路についた。
 彼も着替えて愛用のタクトが入ったカバンを持って楽屋を出た。
 
 絶対音感を持った彼はタクシーのドアの開閉音が苦手だ。
 彼は電車で帰ることにした。
 電車は少し混んでいる。電車の中で、赤ん坊の声が鳴り響く。乗客が眉をひそめる。
 母親が必死にあやすが、赤ん坊の声は大きくなる一方。きちがいじみた金切り声になった時、彼が赤ん坊の前にそっと立ち、両手を赤ん坊の前でちょこちょこ動かした。
 金切り声がやむ。そして安らかな寝息に変わった。

 彼は当代随一の指揮者。

 彼は目立たぬ会釈をして次の駅で降りていった。
その他
公開:26/08/05 23:03

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