歯科医院

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歯の痛みで食事もできず慌てて歯科医院へ駆け込むと、医師はかなり傷んでいますね。
差し歯にするしかありませんと無情にも告げた。
更に診療棚を開け、丈夫な動物の歯があります。ライオン、虎、鰐、鹿、カバ。
どれをご希望ですかと真顔で尋ねる。
私は余り深く考えず、優しそうだから鹿にして下さいと答えた。
治療が終わると、口の中に森の匂いが残り耳の奥では見えない蹄の音が響き始め、何故か鹿煎餅が食べたくなった。
その衝動に導かれるように奈良へ向かう。公園で鹿達と向き合うと、一頭が私を見つめて静かに頷いた。
その瞬間、私の口の中の鹿の歯が小さく震え、ようやく帰ってきたよと囁いた気がした。
鹿煎餅を差し出すと鹿達は親しげに集まり、私は人の言葉より彼らの言葉が良く分かるようになっていた。
夕暮れになり公園を後にする頃には、自分が本当に単に旅人なのか、それとも鹿が人間の姿を借りているのか、何も分からなかった。
ファンタジー
公開:26/07/28 15:48

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