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「…なぁ、光る風を知ってるかぃ?」

頬杖をつき、妖艶な笑みを浮かべながら団扇屋の店主が話しかけてきた。私を品定めするみたいに細められた目は夜空で嗤う三日月の様だ。

「いいえ…」

団扇なんて使わないのに。暑さのせいだろうか?仕事帰り、気がついた時にはこの店の暖簾をくぐっていた。

「おいで」

月光の様な白い手に招かれるまま私が店主の元へ近寄ると、店主は淡く黄金色に光る丸い団扇を扇ぎ出した。
ゆっくり、ゆっくり、繰り返し送り出される風。その風の中でほわんと丸い光がいくつも明滅し始める。

「…蛍?」

独り言にも似た私の問いかけに店主は妖しく微笑むだけ。暫くすると蛍の様なその光たちは私にばかり群がり始めた。

「あんた、甘い人なんだろうねぇ…何事にも」

店主の針の様に鋭い視線がじっと私の瞳を縫いとめる。

「蛍の好物は甘いもの。そんなに甘いと舐め尽くされて、いずれ消ちまうよ?オマエ」
公開:26/07/26 19:28
団扇 写真はイルミ

花笑みの旅人( ネモフィラ )

旅人なのでいたりいなかったりします

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