分厚い店。

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 うちの店には、辞書みたいに分厚いレシピの束がある。
 最初にこれを見せられた時は、正直引いた。
 親父が始めた中華料理屋を継ぐことにしたが、これを覚えるのは至難の業だ。
 なにせレシピの横に『お客さんの名前』まで書いてある。俺は思わず目頭を押さえた。

「いっぺんに覚えろとは言わん。でもこれが全部頭に入るまで店は譲らん」

 店を継ぎたいと言った日は喜んでいたように見えたが、今は眉間に皺がよっている。どうやら本気らしい。
 日々の業務に振り回されながらも、俺は少しずつ辞書みたいなレシピを覚えていった。

「あれ?なんでこれってわかったの?」

 お客さんに声をかけられて気がついた。俺はいつの間にか、その人が頼む料理を運んでいた。

「これがなきゃ仕事なんてやってられんよ。ありがとな」

 ようやく気づいた。
 あのレシピはこの店が歩んできた歴史書であり、親父の思いやりの塊なんだと。
その他
公開:26/07/04 18:00

猫目ちゅん

のんびり屋さんです。優しいお話が好きです。読んでくださる方が、一瞬でも癒されたらいいなと思いながら書いています。癒し系小説家になりたい。サムネのイラストも描いています。

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