仮の席

0
1

三枝さんの席は、
入口の横だった。

電話が鳴れば取る。
来客があれば立つ。
郵便が来れば配る。

席札には、
派遣、とだけ書かれていた。

「名前、書いてもいいですか」

総務の人は、
ラベルライターを引き出しに戻して笑った。

「すぐ覚えるから大丈夫」

三枝さんは、
社員の名前を覚えた。
内線番号を覚えた。
部長が怒る前の咳払いも覚えた。

誰の机なら開けてよいか。
誰の印鑑なら借りてよいか。
書庫の鍵が、
どの引き出しにあるかも覚えた。

半年後、
社員がひとり辞めた。

補充は、まだ先だった。

部長が言った。

「三枝さんはもう、
社員みたいなものだから」

翌朝、
席札が新しくなっていた。

派遣、の下に小さく、

みたいなもの

と印字されていた。

三枝さんは、
少し傾いた席札を、
まっすぐに直した。
その他
公開:26/06/29 12:00
更新:26/06/28 16:55
#鍵束を渡された人

問い屋

問いを描くショートショートを書いています。
 
その違和感を、
まだ持ったままの人へ。
 
問いの続きを、ここにまとめています。

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容