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ある夜、李徴は偶然に友と再会した。
そこは故郷の、月明かりの差す山道であった。
友は以前と変わらぬ姿であったが、李徴には小さく見えた。

久闊を叙した後、李徴は故郷を離れてからのことを語った。
友は興味深そうに聞いたが、羨ましいとは思わなかった。
李徴の語り口には疲労が滲んでいたからだ。

「後悔しているのか?」

友が尋ねると、李徴は月を見上げた。

「分からぬ。だが、時折思い出すのだ」

「何を?」

「この山を」

それから二人は昔話をした。
だが、その声はどこか遠かった。

夜明けが近づく頃、李徴は立ち上がった。

「もう行くのか?」

「ああ。私は人間だからな。家に帰らねばならぬ」

李徴は去っていった。

その顔は、かつて誰よりも高みを目指し、人間になることを夢見ていた若き虎のものではなかった。

あの夜以来、友は月を見るたび思う。

李徴は人間になれて、幸福であったのかと。
ファンタジー
公開:26/06/18 13:25
山月記

加賀美 秋彦

加賀美 秋彦と申します。
2025年4月から、ショートショートを書き始めました。
色々なジャンルの作品を書いています。
よろしくお願いします。

作品イラストはフリー素材やAIで作成したものです。

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