名画でショート110『悲しみの聖母』(カルロ・ドルチ)

1
1

彼女は堅く両手を握りしめた。
瑠璃色のマントを深く被り、目を軽く閉じ、一心不乱に祈り続ける。その姿は実に神々しく、後頭部から後光が差しているように錯覚するほどだ。
声をかけるのも憚られるが、それでも役目として、仕事をしなければならない。ここが雇われものの辛さだ。
「ところで、奥さん」
彼女は微動だにしない。両手を堅く合わせ続ける。しかたなくもう一度、声をかける。
「ところで、おくさん。おくさん」
彼女は目を閉じたまま、神の言葉をつぶやいている。私はしかたなく、強い口調で叱責する。
「そろそろ両手を開けて、中身を見せてもらえませんか? おくさんが万引きしているのは、防犯カメラにバッチリ写っていますので」
その他
公開:26/06/05 21:58

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容