スライダー帰宅

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まだ5月なのに、駅へ続く歩道橋の階段は、暑さでドロドロに溶けていた。
​「遅刻する!」
​サラリーマンたちは真顔で階段に飛び込み、クロールやバタ足でぬかるんだ傾斜を泳いで登っていく。俺も意を決してダイブした。ぬるま湯のような階段のせいでスーツは台無しだが、そんなことに構っていられない。他者を蹴落とす勢いで必死に這い上がってゆく。
​息も絶え絶えに、ついに頂上の改札へたどり着いたが、電光掲示板には非情な文字が躍っていた。
『猛暑で線路が融解したため、全線運転見合わせ』
​絶望に暮れ、ふと反対側の下り階段を見やる。
そこでは出社をあきらめた人々が、溶けた階段をウォータースライダーの要領で滑り降りていた。水飛沫を浴びながら、誰もが楽しそうに笑っていた。
俺はネクタイをむしり取ると、勢いよく下り階段へダイブした。散々な目に遭ったが、明日は頑張れそうな気がした。
ファンタジー
公開:26/05/19 22:23

いちいおと

☆やコメントありがとうございます✨

作品のイラストはibisPaintやAIで作成しています。

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