名画でショート107『ナンバー8,1951、黒い流れ』(ジャクソン・ポロック)

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彼は、かつては画家だった。だが、いまはただのアルコール中毒患者だ。
手もとにウィスキーは欠かせない。
琥珀色の液体を喉の奥に流し込んでから、カンバスに向かうが、指先は震え、まともな線すら書けない。まるで猿や象がショーで筆を振り回して描いた絵のようだ。
だが、不思議なことに、こんなデタラメな線に、評論家は賛美の声をあげた。
「斬新だ」「深みがある」「価値観の変容である」
彼には理解できなかった。すでに脳はアルコールに溶かされている。奇行が目立ち始め、自宅に軟禁状態に置かれている。
だが、それらの奇行ですら彼の伝説の1ページとなり、絵の価値が上がる。
画商たちは彼に「絵」を描くように求めたが、かつて画家だった男は、嫌気がさしていたので容易に筆を取らない。
その希少性が、ますます絵の価値をあげていった。奇妙な話だった。
かつて画家だった男は、いまも画家を名乗らされている。
公開:26/05/16 07:06

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