モノラル・レイン

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急な雨を避けて、地下街へ続く階段を降りた。普段はシャッターが閉まったままの店の看板に灯りがともっていることに気づいたのはその時のことだ。好奇心に駆られた俺は、迷いなく『モノラル・レイン』の重い扉を開けた。
まず目に飛び込んできたのは、大きな蓄音機、真空管アンプ。カウンターの向こう側にいる店主は何も言わず、少しノイズの混じった古いジャズを流している。まるで異空間のようだと思った。盤の揺らぎ、空気の震え――地上にはない穏やかな時間の流れがここにはある。
ハンドドリップで丁寧に淹れたコーヒーは味わい深く、予定が狂ったことへの苛立ちも次第に消えていった。
雨は止んだだろうか。スマートフォンで調べてもいいがそうする気にはなれず、感覚を頼りに会計した。
「次の雨の日にまたお越しください」
店主の言葉になんとなく応じて階段を昇った。雨上がりの光に包まれた街は音楽の余韻を反射し輝いて見えた。
その他
公開:26/05/05 08:58

いちいおと

☆やコメントありがとうございます✨

作品のイラストはibisPaintやAIで作成しています。

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