覗き穴

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午前8時。
薄暗い部屋に、玄関扉の穴から小さな光が差し込む。
男は片目を閉じ、息を凝らして覗いた。
目の前を女が横切る。
「…くそっ」
すぐに姿は見えなくなった。
すると、後ろからスーツ姿の男が現れた。
扉に手をあて、頭を斜めにして覗いた。
次の朝、また穴に顔を近づけた。
昨日の女――
女が消えたあと、後ろから男が遅れて現れる。
次の日も、また次の日も。
少し後ろに、影が重なる距離まで来ていた。
近い――
外は小雨が降っていた。
傘をさし、いつものように駅へ向かっている。
傘で顔を隠した男が後ろに迫る。
横を歩いていた老人が、女の背中を杖で突いた。
振り返り、男の姿を見ると駆け出した。
――カチッ。
暗闇。
端から白い文字が流れる。
『サンプル動画はここまで』
部屋の男は小さく息を吐いた。
そして玄関の扉を開ける。
眩しい――
目を細め、外側の穴に取り付けていた小さな箱を外した。
おわり
その他
公開:26/05/03 00:56
寓話 ズレ ブラック 風刺

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