かけらのつらなり

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 最初、わたしは、わたしのことを「わたし」ではなく「わたしたち」と呼んでいた。あまりにバラバラで、ひどくギスギスしていたから。

 たとえば、水色と緑色と茶色は、三色が三色ともいちばんにカンバスを彩ったのは自分だと主張して譲らなかった。桃色はその華憐さを自慢してほかの色を見下したし、目立ちたがりやの黄色は何色とであれ交わることを嫌がった。

 沸騰する口論。冷ややかなにらみ合い。カンバス中で繰り広げられていたいさかいを終わらせ、そして今にまで続く調和をもたらしたのは、絵筆だった。

 心暖かくもの腰柔らかな絵筆。真っ直ぐで力強い芯を持った救世主。
 わたしが「わたしたち」のことを「わたし」と呼べるようになったのは、彼の細やかで優しい愛撫のおかげだ。

 やがて人間が、ひとつになった「わたしたち」に、つまりはわたしに、名前をつけた。その素直で美しい名前は、わたしの永遠の宝ものだ。
ファンタジー
公開:18/07/26 16:33
更新:18/07/26 16:45
名作絵画コンテスト

ymgoo

(*・・)ф...[どしゃ降りの日生まれ。りんごに夢中。コーヒーはホットのブラックで]

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