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その扉をあけると、土間にはかまどがあり、クリムトが大きな鍋でホワイトソースを作っていた。
焦がさぬように、木のヘラで鍋底に「の」の字を描き、手を休めることはなかった。
だからもう、絵は描けない。
ホワイトソースが焦げてしまうから。
繰り返し「の」の字を描きながら、クリムトはふと、日本を思った。
もし、花巻から宮沢賢治を引いたらどうなるだろう。
観光が立ち行かなくなるかもしれない。
もしわたしがこのオーストリアの農村で、アッター湖畔で、絵を描かなかったとしたら、村のその後はどうなるだろう。

いや、知るか。
わたしはホワイトソースを焦がすわけにはいかない。
あなたは、あなたのソースを焦がさぬように生きたらいい。
煮詰まってきたら、しおどきだ。
ファンタジー
公開:18/07/25 13:12
更新:18/07/26 14:53

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