妄想?
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昨日、彼を往来で見かけたよ。暑い午後だったね。
彼は、麻の三ツ揃えに身を包み、パナマにステッキまで携えていた。その違和感は、向かいの街路樹に見え隠れする彼の姿があまりにダンディーでありすぎることから、ますます増長した。私はそんな物を望んでいなかった。
彼はこちらを一瞥もせずに、プラタナスの角を曲がっていった。コーナーのガラス越しにしばらく見えていた彼の姿が、廃止になった路面電車の影に消えていった。私にはマンホールの蓋までもが物珍しいものに感じられたが、それは彼があのように歩いた道だったからかもしれない。
家に戻るとすぐに、彼から電話があった。彼は私を、無視していたのだと言った。
「君の随想の中に真実は一つしか無いよ。自分がしゃべりすぎるという、ただそれだけしかね」
そう言われてみると、私のあの往来での出来事など、実際には無かったのだということを認めざるを得なかったのさ。
彼は、麻の三ツ揃えに身を包み、パナマにステッキまで携えていた。その違和感は、向かいの街路樹に見え隠れする彼の姿があまりにダンディーでありすぎることから、ますます増長した。私はそんな物を望んでいなかった。
彼はこちらを一瞥もせずに、プラタナスの角を曲がっていった。コーナーのガラス越しにしばらく見えていた彼の姿が、廃止になった路面電車の影に消えていった。私にはマンホールの蓋までもが物珍しいものに感じられたが、それは彼があのように歩いた道だったからかもしれない。
家に戻るとすぐに、彼から電話があった。彼は私を、無視していたのだと言った。
「君の随想の中に真実は一つしか無いよ。自分がしゃべりすぎるという、ただそれだけしかね」
そう言われてみると、私のあの往来での出来事など、実際には無かったのだということを認めざるを得なかったのさ。
ミステリー・推理
公開:18/07/25 07:43
星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。
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