哀悼のカンバス

その画家は、二本の大木の向こうに、青く色褪せた廃屋を見つけた。小さな窓のまわりに無数の弾痕。
その昔、反政府軍による侵略により、村は占領されていたという。
窓から中を覗くと、床に血痕と、壁には夫婦らしき写真があった。その若さに画家は落涙した。
画家は持ってきたカンバスを立て、この家のスケッチを描き始めた。
スケッチが終わると、胸に十字を切って、器の絵の具に聖水を垂らすと、絵筆を走らせた。
静謐なタッチの絵が完成した。
その絵には、弾痕もない美しい家。二本の大木と草花が、見守るように佇んでいる。さらに、加筆し窓を増やした。二人の未来を描いたのだ。
「二人に聖なる光りを与へ給え」
そう天に祈り筆を置いた。すると、
彼のもとに白い二つの影が現れた。それは恐ろしいものではなく、彼は写真の二人だとすぐにわかった。
「二人の愛よ永遠なれ」
彼が囁くと、白い影は光の玉となり、天空の彼方へと昇り、消えた。