花のなまえⅡ

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庭に水遣りの最中、目眩がして、芝草の上に座り込んだ。残照で輝く空を眺める内に、あの人が亡くなった日も夕焼けが美しかった、と思い返す。
家政婦として勤め始めた頃、ひとりの老紳士に出会った。屋敷の庭に咲く花の名を尋ねられたのだが、私には花の姿すら見えず、紳士は笑って去った。その微笑みを、未だにまな裏に呼び起こせる。あれから50年も経つというのに。
ツキンと鳩尾が痛んだ。
さすっていると、ふと視界の隅に、一輪の花が映りこんだ。見知らぬ咲姿だった。青い花、と老紳士の声が、鼓膜の奥で弾けた。
五枚の花弁から成る花だ。中央に芯があり、その根本がひときわ濃い青に染まっている。
手を伸ばすと、やわらかな感触に行き当たり、涙が溢れた。
これから向かう場所で再び逢えたら、「私にも見えましたよ」と知らせよう。あの温かな笑顔で「なんという花だろう」と訊いてくれたなら、今度こそ答えるのだ。
恋という花でした、と。
ファンタジー
公開:18/07/24 07:37
更新:18/07/25 15:32

rantan

読んでくださる方の心の隅に
すこしでも灯れたら幸せです。
よろしくお願いいたします(*´ー`*)

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