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 家人が私と起居を共にするようになって三日目に、猫が戻らなくなった。
「私のせいですわ」
 家人が猫の皿を見つめる。七宝の小皿、かすかなミルク、旧い新聞が、夕暮れの中で宙に浮いていた。
「猫のやつめ、焼餅を焼いた」
 私がそう言うと、家人の唇が細かく震えた。
「そんなふうに、言うものじゃないわ」
 家人は睫を濡らし、私の背後にぼうと立ちあがった。その瞳に緑の炎を宿して。
 その夜から、家人に猫が憑いた。家人は頭を振り、四足で襖といわず、畳といわず、ずたずたに掻き毟った。またたびを与えてみたが、効果は無かった。仕方が無いので、布団を引っ被り私は目を閉じた。
 家人の声が、首の後ろから滑り込んでくる。家人は蒲団を跳ね上げ、私にのしかかり、バタバタと走り回った。私は小半時かけて家人を床の間に追い込み、蒲団でくるんで抱きかかえた。
 夜が明けるまで、家人はずっと咽喉を鳴らしていた。
ホラー
公開:18/07/24 22:49

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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