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 戸村は、決して大勢の前には姿を見せない。今、こっそりと宴を抜け出して屋根裏部屋へやってきた若い男女にも、戸村の熱い息と血のたぎりは隠されている。やがて男が憮然として出ていって、女だけが残されると、破れた緞帳の向こうから、戸村は、真紅のイブニングドレスの女の胸元に狙いをつける。
 歪んだシルエットが女の背中に落ちて、屋根裏部屋へ続く階段の踊り場は血飛沫に染まる。階下では怠惰な音楽が鳴り止まない。
 天井を破って、髪を乱してくるくると首が、続いて剥き出しの腕が、そしてピンヒールを履いた足が、会場特別誂えの噴水池の中へ、派手な飛沫をあげて落ちた。
 人々が出口へと殺到する。何人かは捻れ、何人かは潰れる。
 しかし、まだまだ生きた人間の方が多いから。そして、出口は決して開かれないから。戸村は屋根裏部屋でゆうゆうと、女の子宮の辺りに舌をのばしている。
ホラー
公開:18/07/24 22:35

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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