罪の火葬

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忘れたい記憶は絵画とともに葬ればいいという。私は数あるレプリカの中からクリムトを選んだ。モザイクの木々に囲まれた素朴な風景が一番よく燃えそうだったからだ。
私は紙に記した己の罪を小さく折りたたむと、窓から家に投げ入れ、恐る恐るライターの火をかざした。と、手前に咲く花がジリジリと焼け焦げ、やがて火が点る。
炎は恐ろしい勢いで燃え広がり、轟々と何もかも焼き尽くすと、あとに残ったのは真っ白なキャンバスを収めた額縁だけだった。
私は穏やかな気持ちで目の前のそれを眺めた。心につっかえていたであろう記憶は、絵とともに跡形なく消失したらしい。
これで日常を取り戻せる。家族三人、平凡ながらもかけがえのない日々を――
「おーい、ドライブにでも行くか」
嬉しくなって声をかけるも、家の中は静まり返っている。
「買い物に行ってるのか?」
私は愛する家族を探しに部屋を出る。額縁の下に残された血痕に気づかないまま。
ホラー
公開:18/07/24 11:10

咲川音

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