浮かばない絵

私がこの絵を初めて見たのは新聞でだった。どのような記事だったかは忘れた。だがこの美しい風景画は数年経ても私の心の片隅に居座り続けていた。
そして今日私はこの絵と再会を果たした。気紛れで寄った展覧会に他の絵画に埋もれる形で飾られていたのだ。
偶然の再会にも驚いたが、それよりも私に強い衝撃を与えたのは絵の紹介文だった。この家の農家は一家惨殺され、警察はある事情からこの絵を資料として画家に描かせたらしいのだ。
私が見た新聞記事はこの事件のことらしいと頷いたが、なぜ写真ではなく絵だったのか気になった。
好奇心をくすぐられた私はこの絵画の家を訪れた。季節は春で、色鮮やかな草花が絵のとおり古びた家を彩っていた。
私は絵と同じ構図になる場所で持参したカメラで写真を何枚か撮った。
そして後日現像してなぜ警察は絵を使ったのかわかった。あの家を写した写真は全て黒い人影で覆われて、使い物にならなかったのだ。