翳りの庭

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目覚めたとき、部屋は真っ暗だった。
まだ夜なのかとも思ったが、朝を告げる鳥のさえずりが遠くに聞こえているのがわかる。
そういえば、庭の木が枝を伸ばしすぎて部屋に陽が入りにくいと、昨日妻と話したばかりだ。ついには朝陽も入らなくなったか。
剪定を早めようかと思いつつ、隣の妻を見た私は仰け反った。
妻が、いや、妻のいたはずの場所が、葉で満たされている。
見渡すと既に部屋中が葉に侵されており、ぎちぎちと音を立てていた。私の身体も、葉に押し潰され始めている。必死で払い除けようとするも、葉は意思をもっているように蠢き、私の手を絡めとった。
身動きのとれなくなった私の身体を押しつけて、葉はさらにぐんぐんと隙間へ潜り込んでいく。口へ入り込んだかと思うと、耳、鼻と次々侵入し、爪の間や瞼の隙間までをも裂くように広がっていった。
どこかで聞いたぎちぎちという音の後にぶちんと鈍い音がして、私は意識を手放した。
ホラー
公開:18/07/22 11:26
更新:18/07/22 20:19

ゆた

高野ユタというものでもあります。
幻想あたたか系、シュール系を書くのが好きです。

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