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時刻は真夜中。厳重な警備体制の敷かれた美術館の暗闇に男が一人、ある画家の絵を今にも手にかけそうな目で凝視していた。
「右上の黒いシルエット、間違いなくあの時の俺だ」
あの日俺は、さる貴婦人と男女の仲が噂されるこの画家を徹夜で密偵していた。
夜が明け、そろそろ切り上げようとした矢先、奴が絵描き道具を持って家から出てきた。そしてまっすぐこちらを見据える位置に座ると、絵を描き始めやがった。動こうにも動けず、男が昼食に離れると同時に、ほうほうの体で逃げ出した。
翌朝、俺は契約の打ち切りを告げられた。他の密偵が決定的な証拠を掴み、用済みになったというわけだ。
数年後、男は病死した。
「しかし、人生ってのはわからねえもんだな。まさかこの絵に会うことになるとは」
そうつぶやくと男は帽子を目深にかぶり直し、踵を返して絵から離れていった。彼の勤務は夜十時から翌朝八時まで、この美術館を警備することである。
「右上の黒いシルエット、間違いなくあの時の俺だ」
あの日俺は、さる貴婦人と男女の仲が噂されるこの画家を徹夜で密偵していた。
夜が明け、そろそろ切り上げようとした矢先、奴が絵描き道具を持って家から出てきた。そしてまっすぐこちらを見据える位置に座ると、絵を描き始めやがった。動こうにも動けず、男が昼食に離れると同時に、ほうほうの体で逃げ出した。
翌朝、俺は契約の打ち切りを告げられた。他の密偵が決定的な証拠を掴み、用済みになったというわけだ。
数年後、男は病死した。
「しかし、人生ってのはわからねえもんだな。まさかこの絵に会うことになるとは」
そうつぶやくと男は帽子を目深にかぶり直し、踵を返して絵から離れていった。彼の勤務は夜十時から翌朝八時まで、この美術館を警備することである。
ミステリー・推理
公開:18/07/22 11:14
更新:18/07/22 11:29
更新:18/07/22 11:29
グスタフ・クリムト
北オーストリアの農家
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