狙った獲物は

レディースアンドジェントルメン。無数のライトに照らされるなか、私は叫んだ。
どうしたらよいものか、と警備の者たちが右往左往しているのが分かる。
東インドの金塊。
西ドイツの記憶。
南アルプスの少女。
これまで盗んできた絵画を思い浮かべる。全ていとも簡単に手に入れることができた。
北オーストリアの農家。
あとはこの絵画さえ手中に収められればコンプリートだ。
「おい、怪盗め」天敵の警部が拡声器で呼び掛けてくる。「今日こそはお前の思う通りにはさせんぞ。絵を分厚い氷で冷凍保存している。さすがのお前でも持ち出すことはできまい」
私は高笑いをして言い放った。
「私を誰だと思っているのです。怪盗ですよ？」
解凍ならお手のものだ。