魂のこもった絵

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「何を描いているのですか?」
私は家に帰る途中、みすぼらしい格好をした老人に声をかけた。
彼は人通りのない夜道の隅で、パレットと絵筆をそれぞれ片手に持って座り込んでいた。
「おやおや、お前さん。気になるのかい?」
気味の悪い笑顔を浮かべた老人に手招きされて見てみると、とても綺麗な風景画だった。
「これは外国の田舎かい?色使いが気に入ったよ」
「そりゃあ魂のこもった色を使っておるからのう」
「なるほどねぇ。もう完成したのかい?」
「まだじゃ。あと一色だけ足りなくてのぉ」
「それでこんな所に座ってるわけか。いくら必要なんだ?」
「お金なんて滅相もございません」
「水臭いこと言うなって。素晴らしい絵に貢献させてくれよ」
「そこまでおっしゃるなら……ヒヒヒ」
老人は筆の先を私に向けた。吸い込まれるような感覚。私は気を失った。

「ようやく完成したわい。最後の色がなかなか見つからず困っておったのだ」
ホラー
公開:18/07/20 23:33
更新:18/07/21 00:30
北オーストリアの農家

土性武蔵

小説を書いております。

ショートショートというと、やはり星新一さんが大好きです。原点です。

気難しいところはございますが、気軽に声をかけてください。

@doshow_634

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