どこにでもある農家

北オーストリアの田園地帯の一角に、一軒の家があります。窓辺にはびいどろの花瓶が飾られ、庭にはチューリップやタンポポが健気に咲き誇る、陽だまりのようなお家です。
このおしゃれな家には一人の男性が住んでいます。男性は日々農業に勤しみ、そして二週間に一回必ず仕事をお休みします。その日には庭で椅子に座り、バイオリンを弾きながら、お得意の鼻歌を陽気に歌います。その声と音は、生の喜びが溢れ出るように共鳴し合い、鳥たちも一緒にさえずり唄い始めます。そして大好きな肉のシチューを食べ、次の日にはまた農業に勤しみます。
男性は、今までそうやって暮らしてきました。
今日も農業を終えた男性が帰ってきました。いつものように仕事で使った血の付いた鍬を納屋に置き、誰かの腕にかぶりついています。
壁を叩く音が、どこからか響いてきます。
今日もこの家では、穏やかな時間がゆっくりと流れていきます。