絵画の水やり人

17
74

倉庫にしまっていた絵に異変が起きていた。
植物に覆われた美しい絵画だったのに、いまでは草花は萎れ木々の葉は枯れていた。
ぼくはすぐ絵医者に診てもらうことにした。

「どうです先生?」
聴診器をカンバスに当てて神妙な顔付きだ。
「ふむ、こりゃ水をやってないせいじゃな」
「水、ですか?」
「植物じゃからな、水やらんと枯れるわい」
「絵に……かけるんですか?」
「いやいや、水やり人にはっぱをかけるんじゃよ」
先生の指示に従って絵に言葉を投げかけることになった。
「なんと美しい!」
「素晴らしい絵画ですね」
と、こんな調子で絵を褒めたたえ、
「じゃが、草花が枯れとるのが惜しいのう」
「花があればもっと良いのにね」
と、彼の自尊心をくすぐってやるのだ。
しばらく待つと絵の中の青い家から、水やり人がひょっこり出てきた。

そして勢いよく水を撒き始めると、草花は満開の花びらを咲かせはじめた──。
ファンタジー
公開:18/07/21 23:17
更新:18/09/17 16:29
北オーストリアの農家

渋谷獏( 東京 )

(੭∴ω∴)੭ 渋谷獏(しぶたに・ばく)と申します。 小説・漫画・写真・画集などを制作し、Amazonで電子書籍として販売しています。ショートショートマガジン『ベリショーズ』の編集とデザイン担当。
https://twitter.com/ShaTapirus
https://www.instagram.com/tapirus_sha/
http://tapirus-sha.com/

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容