月の光

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森の中に私たちの家はあった。畑に芋を植え庭では妻が花を育てた。私たちは貧しくも幸せに暮らしていた。
戦争が始まると私も戦地に送られた。死にたくなくて沢山の人を殺した。
その時も私は敵兵の胸めがけて銃剣を突き刺した。するとその男の目の中で何かが動いた。いつか男が拾った仔猫が死の間際、記憶から這い出てその目に宿った。
雪のように真白な仔猫だった。その無垢な目に見つめられ私は我に返った。
人殺しはもうたくさんだ。私は銃を捨て逃げ出した。
敵前逃亡!
腿の裏を焼けるような痛みが突き刺し前から血が吹き出した。私は味方に撃たれた。銃声が鳴り響く中、気がつくと狭い隧道に迷い込んでいた。遠くに光が見えた。小さな希望のように灯るその光へと私は這い進んだ。
それは月の光だった。
いつの間にか私は森にいて目の前に朽ち果てた私たちの家があった。
私は妻の名を叫んだ。
月光に濡れる森に咆哮が谺した。
私は狼だった。
ファンタジー
公開:18/07/21 16:00
更新:18/08/27 15:35

杉野圭志

元・松山帖句です。

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