希望に満ちた旅立ち

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「契約は完了しました。それではこちらの展示品の中からお選びください」
博物館のように様々な絵の並んだ廊下に案内された。風景画も人物画もたくさんあるようだ。
どの世界に行こうか。男は素晴らしい作品たちを眺めて吟味を始める。すると、ある美しい風景画が目に止まった。のんびりとした田舎生活を期待させてくれる、繊細な筆遣いで描かれた絵。
「これでお願いするよ」
付き添っていた職員にそう告げて、カプセル型の機械へと乗り込む……。
「お客様の幸せをお祈りしています」
職員に見送られて、男は新しい世界へと旅立っていく。彼の新生活は希望に満ちていた。

数ヶ月後、男はクレームを入れていた。
「おい、話が違うぞ!戦争の真っ只中じゃないか」
職員は呆れたような顔で答える。
「そう仰られましても、あなたがお選びになった絵は確かに今いらっしゃる世界で描かれたものでございます。隣の芝生は青く見えるといいますが……」
SF
公開:18/07/19 18:47
更新:18/07/19 22:17
北オーストリアの農家

土性武蔵

小説を書いております。

ショートショートというと、やはり星新一さんが大好きです。原点です。

気難しいところはございますが、気軽に声をかけてください。

@doshow_634

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