ある絵画と見えない少女

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妹は全盲だったが美術館が好きで、その日も僕は杖をつく妹に付き添い、美術館にいた。
「待って。花の匂いがする」
妹はその風景画の前で、クンと匂いを嗅ぐようにした。
「湿った森の匂いがするわ。樹が生えてる。その周りにたくさんの花が咲いてるの。黄色やピンクやブルーの花がいっぱい。どこかの庭かしら?」
「見えるの?」
僕はバカみたいなことを聞いた。
「感じるの。お花畑みたいなお庭。ああ、家があるのね。古い木の匂いがする。木のおうちだわ」
妹はいつも、絵から匂いがしたり、音が聴こえると言うのだが、今日は本当に見えてるみたいだ。
「誰か住んでいるのかしら。あら、誰かいる。呼んでいるわ」
「誰もいないよ。見えないよ」
横を見ると、妹の姿はなく、一瞬絵の中に杖のようなものが見えたのだが、花に埋もれてすぐに消えた。
僕は妹の名を呼び、手を伸ばしたが、何も起きず、目の前には一枚の風景画があるだけだった。
その他
公開:18/07/19 10:21

むう( 地獄 )

人間界で書いたり読んだりしてる骸骨。白むうと黒むうがいます。読書、音楽、舞台、昆虫が好き。松尾スズキと大人計画を愛する。ショートショートマガジン『ベリショーズ 』編集。そるとばたあ@ことば遊びのマネージャー。

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