奇妙な同居人

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生前、妻が大切にしていた絵画には人が住んでいたらしい。
初老のその男は、普段家に引きこもっているのか姿を見せない。
ところが夜になって、私が部屋の電気を消すと、額縁のあたりがぼんやりと光るのだ。そろりと近づいて虫眼鏡で覗いてみれば、橙の明かりが灯る窓の向こうで、彼は必死にキャンバスと向かい合っていた。
絵の中で絵を描いているというおかしさに、彼の観察は私の日課になった。
ある晩、いつものように家の中を覗いていると、偶然彼と目が合った。彼はしょぼくれたグリーンの瞳で私を睨むと怒って窓を閉めてしまった。
それから数日が経ち、とある夕暮れ、私が部屋でくつろいでいるとコンコンと微かな音が聞こえてくる。それは彼が絵画の中からこちらをノックしている音であった。
彼はモザイクの庭に運んできたキャンバスをこちらに向ける。現れた懐かしい微笑みに、私は泣き笑いをして言った。
「お前もあいつに恋をしていたのか」
ファンタジー
公開:18/07/20 18:40
更新:18/07/20 20:53

咲川音

小説を書いては新人賞に応募しています。

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