ひとつだけの家

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「魔女の家」と呼ばれていた家がある。
そこに住む「魔女」は薬草を使って様々な薬を作っていて、多くの村人が薬をもらいに訪れた。
薬は怪我や病気によく効いたが、誰もが笑顔で帰って行くのを見ると、心にも効くようだった。

草花の生い茂った中を歩き、今は誰も住んでいないその家の前に立つ。
薬草畑だった庭は一面の緑に染まり、色とりどりの花がモザイク模様のように咲いている。
もはやどれが野花でどれが薬草なのか見当がつかないが、『薬草も全部が効くわけじゃないのよ』と彼女は言っていた。
彼女は効くものだけを選ぶ目を持っていたのだろうか。
モザイクの庭から、彼女なら「よく効くひとつ」を探し出せるのかもしれない。

木の扉がキィと鳴くのを聞きながら室内に足を踏み入れると、薬草と古い家の香りがした。
定位置で丸くなってそっと目を閉じる。
天井から吊るされた薬草を風が揺らし、黒の毛並みに花弁がカサリと落ちた。
その他
公開:18/07/20 09:49
クリムト 北オーストリアの農家

天宵 遥

言葉遊びや少し不思議なお話が好きです。
SSGプチコン1「花」優秀賞入賞

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