秘密

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「ミツルさん…。」
あの時、私から「付き合って」って。そう言ったらどうなっていたのだろうか。

私が出ていくと分かっていたあの人は、自分から言うはずがなかった。

それなのに私を突き放すことなく、私はそれに甘えた。

後悔しても、もう今は叶わない。私はここまで来てしまった。

目を閉じれば思い出す。レモンのような甘酸っぱい気持ちを、初めての幸せの色を、私に心を許してくれた笑顔を。

過ごしたのはひと夏だけ。

一緒に星を見て、星座をなぞった。

お酒を飲んで、そのまま外に飛び出し、花畑に全身埋もれた。

そうしてひときしり笑ったら、小屋の外で飽きることなく、月の光で浮かんだ木目を数えた。

あの場所に帰ることは、もうないだろう。

思い出を残したままのあの風景を、色あせぬ気持ちを、そうすることで思い出すのだ。

明日夫になる君には内緒。
願わくば、どうぞあの人が幸せでありますように。
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公開:18/07/19 23:24

綿津実

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