有名代

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「『アイツ』、『有名代』を払ってなかったらしいな」
「まじかよ、バカだな『アイツ』」
これっきり誰も『アイツ』の話はしなかった。『アイツ』のことなどもう、心底どうでも良いことだった。

『有名』の為、つまり名を持つ為に、僕たちは国に金を払う。
あらゆる権利は名に紐づけされていて、『有名代』を払わなければ、早い話、人間としての生活を奪われる。
これは当然の話だ。
権利は与えられる物ではない。主張することが必要だ。
自分の名前すら守れないものは、最早人間ではない、その権利はない……

かといってこれは『税』ではないので、義務でもない。
ただ、払わなかった時に人間としては終わるだけだ。
大体の人間はそれを拒むので『有名代』は最期までつきまとう。

昨日『アイツ』を街で見かけたが、誰に見向きもされず、だがまだ生きていた。しかし時間の問題だろう。
結局、『有名代』は最期までつきまとうものなのだ。
SF
公開:18/07/18 01:19
更新:18/07/20 00:40
許可

sakana

ショートショート好きです
学生やってます。

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