メモリーズ

13
66

その奇病に罹ったのは、20歳の誕生日の日だった。
「お早う、母さん」
次の日の朝、いつものように階段を下りて行くと母が涙を流して抱きついてきた。
駆けつけた妹や父の話によると、僕はちょうど一年停止していたのだという。それが21歳の誕生日に突然動き出したということだ。最初は担がれているのかと思っていたが、次の日もその次の日も、起きるたびに世の中はちょうど1年づつ経過していた。
1ヵ月も経たないうちに、父が死に母が死んだ。妹は結婚して大きな子どもができていた。
さらに1ヵ月経つと妹も死に、代わりに妹の孫の世代が僕の世話をしてくれた。
やがて科学も進歩し、僕の周りの時空そのものが停止しているという事は分かったが、治療法を解明する事はついにできなかった。
大きな戦争が起こったのか、ある日を境に人類は姿を消した。

曠野にひとり佇んでいると天使たちが舞い降り、僕のメモリーを吸い上げていった──。
SF
公開:18/07/17 23:30
更新:23/01/02 20:43

渋谷獏( 東京 )

(੭∴ω∴)੭ 渋谷獏(しぶたに・ばく)と申します。 小説・漫画・写真・画集などを制作し、Amazonで電子書籍として販売しています。ショートショートマガジン『ベリショーズ』の編集とデザイン担当。
https://twitter.com/ShaTapirus
https://www.instagram.com/tapirus_sha/
http://tapirus-sha.com/

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容