選風機

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選風機、ですか。
偶然訪れた薄暗い店内で古ぼけた扇風機、いや、選風機を見つけた。見かけはただの扇風機、とくに変わったところはない。
スイッチを押すとふわっと風がそよぐ。頬を撫でる風が薫る。若葉の薫りだった。
季節は夏真っ盛り、少し汗ばむくらいの店内であったはずだが、そこにあるのは…薫風。
これは…?店員の方を見ると、選風機です、と微笑んだ。
ならば…と店員に欲しい風をお願いする。
少し磯の香りがして…首筋が少しベタつく、時折荒々しく、それでいて包み込むような穏やかさを兼ね備えた風…波音が聞こえたような気がした。

ありがとう、と店員に礼をいう。店員は笑いながら言った。
「風は顔から浴びない方がいいですよ、向かい風、逆風になってしまいます。どうせ浴びるなら背中に浴びて、追い風をお選びください」
その他
公開:18/07/17 22:12

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