蠢く絵画
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美術館の警備の仕事をしていた私は、その日最後の巡回をしていた。閉館後の館内は静かで、名画たちの息づかいや気配を感じることがある。
私はある一枚の絵の前で足を止めた。「オーストリアの農家」と題されたその絵は、黄色を中心に色とりどりの花や木々が描かれ、その奥に木造の家が見える。
足を止めたのは、絵がわずかに蠢いているように見えたからだ。羽音のようなものが聞こえ良く良く目を凝らすと、花や木々と思っていたのは、蝶や蛾やバッタ、カマキリ、蝉など様々な昆虫であった。
「なんと」
思わず大きな声を出すと、その声に驚いたかのように大量の昆虫がぶわっと色の塊となって、森から一斉に飛び立ち、跡には木の家だけがポツンと佇んでいた。
「なんてこった」
私は頭を抱え、誰にも話せず家に帰った。
明くる日の朝、出勤して恐る恐る絵を見に行った。驚くべきことに、素晴らしい擬態で昆虫たちは元通り絵におさまっていたのだった。
私はある一枚の絵の前で足を止めた。「オーストリアの農家」と題されたその絵は、黄色を中心に色とりどりの花や木々が描かれ、その奥に木造の家が見える。
足を止めたのは、絵がわずかに蠢いているように見えたからだ。羽音のようなものが聞こえ良く良く目を凝らすと、花や木々と思っていたのは、蝶や蛾やバッタ、カマキリ、蝉など様々な昆虫であった。
「なんと」
思わず大きな声を出すと、その声に驚いたかのように大量の昆虫がぶわっと色の塊となって、森から一斉に飛び立ち、跡には木の家だけがポツンと佇んでいた。
「なんてこった」
私は頭を抱え、誰にも話せず家に帰った。
明くる日の朝、出勤して恐る恐る絵を見に行った。驚くべきことに、素晴らしい擬態で昆虫たちは元通り絵におさまっていたのだった。
その他
公開:18/07/17 16:32
人間界で書いたり読んだりしてる骸骨。白むうと黒むうがいます。読書、音楽、舞台、昆虫が好き。松尾スズキと大人計画を愛する。ショートショートマガジン『ベリショーズ 』編集。そるとばたあ@ことば遊びのマネージャー。
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