知識を増やすと見えるもの

彼女と一緒に美術館にやって来た。
僕は北オーストリアの農家の絵の前で首を傾げる。
「どうしました？」
老人が声をかけてきた。僕はその人に感想を伝えなければいけない気がした。
「この絵、ちょっとおかしいなと思いまして…」
「どのようにですか？」
「奥の家はしっかり描かれているのに、周りの木や草花は抽象的に描かれているじゃないですか。樫の木の質感に鉄丸釘のN65の頑丈さ。そこまで描いて何で草花は抽象的なのかと」
「貴方は日曜大工がお好きで？」
「ええ、趣味でやっています」
老人は笑う。
「なら、それが答えですよ。貴方の知識がこの絵の真実を見抜いているのです」
絵の真実？何を言っているんだ？
「どうしたの？」
彼女がやって来た。
「うわぁ…この絵凄いね。ヒマワリにガーベラにダリア。すごく綺麗。でも何で奥の家や木は抽象的なのかな？」
驚いて彼女を見る。僕と彼女では見ている絵の真実が違うようである。