無毛地帯

16
68

寝苦しい夏の夜のことだった。
「もし」
私を呼ぶ声がする。目を開けると一本の毛が立っていた。
「私は毛の代表者である。この国の代表者である、あなたにお願いをしたい。この国では、脇毛や脛毛など体毛を毛嫌いし、脱毛を繰り返している。体毛も、頭髪や睫毛などと、同様に扱って貰えぬか」
私は考えた。同様にとは脇毛は剃らずに時々カット?世の中は、脇毛をボーボーに伸ばした女性だけになるというのか。
「正直、人は体毛はもう必要としていない。必要なのは、頭髪、睫毛、眉毛、鼻毛ぐらいだ」
「それが答えか、相分かった」
毛の代表者はスッと消え、私は、陰毛は残せば良かったかなと思いながら眠りについた。
次の朝、この国の人間のありとあらゆる毛が毛根から抜け落ち、国中がパニックに陥った。
毛の代表者から声明文が届く。
「不毛な話し合いは持たぬ、私たちは脱人した。この先は無毛な人生を送ればよい」
もう毛の気配もない…。
その他
公開:18/07/18 18:09

むう( 地獄 )

人間界で書いたり読んだりしてる骸骨。白むうと黒むうがいます。読書、音楽、舞台、昆虫が好き。松尾スズキと大人計画を愛する。ショートショートマガジン『ベリショーズ 』編集。そるとばたあ@ことば遊びのマネージャー。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容