ラガーマンのチョコ

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テストの直前、おれはチョコを頬張った。それは元ラガーマンの父がくれた特別なものだった。

「このチョコはラグビーボールから作られてんだ。カカオみたいに、あのボールからも種が取れてな。それをチョコにしたものだ」
父は言った。
「糖分補給ができるだけじゃないぞ。闘志も補給できるんだ。何しろ、ラガーマンたちの熱量がたっぷり詰まったものだからな」

おれはまたチョコを手に取り、口に運んだ。男たちの汗と涙ゆえだろう、甘さの中にしょっぱさがあり絶妙な味だった。
テストがなんだ!
次第に熱い気持ちになってきて、またひとつチョコを頬張る。
やるぞ!
もうひとつ、口へと運ぶ。
絶対勝つ!
どんどんチョコを食べていく――。

結局、おれがテストを受けることはなかった。血がたぎり過ぎて鼻血が噴出してしまい、保健室へと運ばれたのだ。
おれは一人、ベッドで泣いた。その日流した熱い熱い悔し涙は、一生忘れないだろう。
青春
公開:18/07/16 10:32

田丸雅智( 東京 )

1987年、愛媛県生まれ。東京大学工学部、同大学院工学系研究科卒。現代ショートショートの旗手として執筆活動に加え、坊っちゃん文学賞などにおいて審査員長を務める。また、全国各地で創作講座を開催するなど幅広く活動している。17年には400字作品の投稿サイト「ショートショートガーデン」を立ち上げ、さらなる普及に努めている。著書に『海色の壜』『おとぎカンパニー』など多数。

◆公式サイト:http://masatomotamaru.com/

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