フラワーシャワー

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『クリムトの世界展』と掲げられた美術館は、研修旅行で訪れるには少しばかり居心地の悪い場所だった。男子たちは誰も彼も裸婦画のゾーンから動こうとせず、私は小さく嘆息する。
関心も薄く見るともなしに歩き、ひとり人気のない風景画のゾーンへ差し掛かる。
その時、どこからかザアという葉擦れの音と共に風が吹き込んで、突如たくさんの小さな葉が舞い上がった。
見回すと葉が落ちているすぐそばには、淡い色調で描かれた一枚の絵があった。
まさかと思いつつ覗き込んだ瞬間、絵からハラリハラリと葉が落ちる。
ふと、葉の落ちて見通しのよくなった枝越しに、薄青色の屋根が見えていることに気がついた。そこには寄り添って仲睦まじく空を見上げる影が二つ。恋人だろうか、安らぎに満ちた二人が、花が綻ぶように微笑み合う。

瞬間、私はなぜか無性に胸の詰まる心地がした。
そうして葉と花を両手にかき集め、祝福を込めて、宙高くへと投げたのだ。
ファンタジー
公開:18/07/16 01:28
更新:18/07/16 10:00

ゆた

高野ユタというものでもあります。
幻想あたたか系、シュール系を書くのが好きです。

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