重なる色彩

2
58

「絵は奥側から描いていけよ。手前に来るものは重ねていけるからさ」
夏の芸術祭。絵を教えてくれた親友のおかげで、俺はたどたどしくも下書きから根気よく続けて描いていくことができた。俺は静物画が苦手だ。それを知っている親友は、自分の作品もあるのに俺についてくれた。
「お前は指が細いから器用だな」
そういうお前の首筋は細くて、きめ細やかだ。絵筆を一緒に握る滑らかさは、俺の心を絵の世界に連れて行く。お前と一緒になりたい。光溢れるアトリエで、二人で一つの油絵を、重なる色彩で表現したい。
「お前の絵は?」
「お前の方が心配だよ」
その優しさを申し訳なく思いつつ、俺が歓喜に震えていたのを知っているか?
「じゃあまたな」
そう言って別れた帰り道。お前が知らない奴と手を繋いでいたのを見た。
「あれ、お前、絵を変えた?」
「重ね塗りしたんだよ。こんなアトリエにしたくてさ」
美しい色彩で、俺は嘘の上塗りを施した。
青春
公開:18/07/15 22:21
更新:18/07/15 22:42
青春 コンテストに参加

風月堂( 札幌 )

400文字の面白さに惹かれて始めました!
文字や詩のようなものを書くのが趣味です。
情緒不安定気味でアゲサゲ落差のひどい人間ですw
いろんな方々の作品を読んで、心を豊かにしていきたいです。

無料の電子書籍をつくりました。
『ショートショート作品集カプセルホテル【】SPACE』
a.co/1VIyjHz

『枇杷の独り言』
ショートショートコンテスト『家族』最優秀賞頂きました。

写真は全て自前でやっています(笑)

こちらで写真を紹介、ハガキにと販売しております!
https://minne.com/@sakoyama0705  - ハンドメイドマーケットminne(ミンネ)

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容