みずいろのおうち

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「絵を運ぶのを手伝ってくれないか」
僕はおじさんの頼みに快く応じた。
「ここで待っていてくれ」

アトリエに残された僕は花畑に佇む水色の家の絵を眺めた。美しくも、どこか悲しげな印象を受けた。

「なんだか切ないね」

僕が呟くと、堰を切ったように絵が泣き出した。

「うわああん」

「ぎゃあああ」

僕は慌てておじさんを呼びに行った。

おじさんは絵に駆け寄った。
僕はドアの外から様子を覗いた。

「大丈夫だ。心配するな」
おじさんは優しく声をかけ続けた。

泣き止んだ頃には、絵の上半分が涙でぐちゃぐちゃだった。

「よし。今から直してやるからな」
二本の木が書き足され、絵は変貌を遂げた。

「前より綺麗になった。もう泣くんじゃないぞ」

おじさんはドアの外で震える僕を見つけて困り顔で言った。


「私の風景画たちは、よくホームシックになるんだが、家を出る前に泣いたのはこいつが初めてだよ」
その他
公開:18/07/15 21:53
更新:18/08/29 23:40

ぱせりん( 中四国 )

北海道出身です。

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