逆立ち

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蛙のオーケストラはひどく不快な音を奏でる。観客は意味もなく目を閉じて恍惚の表情。
演奏後はみな逆立ち、足を鳴らした。
僕は逆立ちができなかった。
人々は、異物となった僕を見て笑った。
「あいつ、逆立ちも出来ないんだぜ」と一人の男が喚く。口から溢れた唾液で床は濡れた。
僕は、何も良くなかったから足を鳴らさないだけだと言った。
「つまりはそういうことだろうよ。お前には芸術が分からんのだ」

会場を後にして僕は、そもそも音を聞くことが苦痛だったと思い出す。
車の悲鳴も、海の咽びも、鳥の媚びた歌も、人の機械音も、何もかもが僕の神経を逆撫でする。
「いっそのこと鼓膜は破ってしまうがいい」すれ違う度に人々が僕の耳元で囁いた。なるほど、たまには彼奴らも、まともなことを言うものだ。
その気になった僕に「使いな」と男が拳銃を差し出した。
ありがとう、と最初で最後のお礼を言って、僕は気に入らない鼓膜を撃った。
その他
公開:18/07/14 23:29
更新:18/07/21 23:07

sakana

ショートショート好きです
学生やってます。

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