図書館の男の子

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私には、この町に好きなものが沢山あった。広い海と澄んだ空そして、

「アヤメ、転ぶよ」
「だって、はやく会いたかったから!」

山奥にある図書館にいる男の子。
身体が弱いのか学校で見かけることはないが、図書館に行けば必ず本を読んでいた。

「何を読んでるの?」
「秘密」
「いつもカバー付けてるよね」
「なに読んでるかバレると恥ずかしいからね」
「恥ずかしい本なの?」
「一人の女の子が生まれてから死ぬまでの本だよ」

覗き込もうとしたら閉じられてしまうので、最後まで何を読んでいるのか分からなかった。

「ねぇ、今なら何を読んでいたか教えてくれる?」

幸せな人生だったと思う。
旦那さんにも、子供にも、孫にも恵まれた。でも、最後に会うのが彼でよかった。

「女の子が生まれてから死ぬまでの本」

彼は最期までなにも教えてくれなかった。でもちゃんと会いに来てくれた。それだけで、とても幸せだった。
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公開:18/07/14 22:55

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